「流浪の月」レヴュー 2020年本屋大賞受賞作品はおすすめ

毎年、本屋大賞をチェックしています。なぜなら、大賞を受賞した作品は、芥川賞や直木賞等の作品などと比べ、内容が面白く、自分の感性に合っているからです。

今年は、「凪良ゆう」の「流浪の月」が受賞しました。さっそく読んでみると、いろいろなことを考えさせられる作品でした。結論から言うと「おすすめの本」です。

それでは、読んだ感想を「衝撃のカテゴリー」ごとに述べてみたいと思います。

登場人物の背景の衝撃

登場人物は主に主に5人です。そして、中心人物は、「家内更紗」と「佐伯 文」です。2人の清らかな関係性の物語です。

後の3人は、更紗の恋人「」、更紗の同僚の娘「梨花」です。そして、文の恋人の「谷」です。ほかに、数名の人物が出てきます。

皆、それぞれ、それなりの事情を持ち、中心人物の2人(更紗と文)となんらかのかかわりがあります。

特に、更紗の元恋人の「亮」の変貌ぶりに、人間の弱い部分と恐ろしい部分について考えさせられることでしょう。

映画の活用の仕方の衝撃

小説の中にひきりに出て来る映画『トゥルー・ロマンス』は、1994年公開のアメリカの作品です。

監督 は名匠トニー・スコット、脚本 は、ハリウッドの顔、クエンティン・タランティーノです。主演はクリスチャン・スレーターとパトリシア・アークエットです。

トゥルー・ロマンスの予告

これは、過激なストーリーを売りにしたバイオレンスとセクシャルシーン満載の映画です。

特に、パトリシア・アークエット演じるエルヴィスは、とても魅力的に描かれています。若いカップルの無軌道な行動が美しく描かれたロマンス映画です。名作の部類に入る作品だと思います。

できたら、この小説を読む前に鑑賞することをお勧めします。映画の内容を知っておけば、更紗の家庭環境について理解が深まります。そして、更紗の生い立ちがよくわかるでしょう。

目次の分け方とネーミングが衝撃

目次が無機質でユニークです。

一章 少女はなし    (現在)

二章 彼女のはなし  Ⅰ  (遠い過去)

三章 彼女のはなし Ⅱ  (過去)

四章 彼のはなし   Ⅰ  (遠い過去)

五章 彼女のはなし Ⅲ  (過去)

終章 彼のはなし  Ⅱ  (現在) 

上記のようになっています。最初は、「時系列が複雑でややこしい。」と感じますが、それは全く心配ありません。「なるほどこのようにつながっていくのか。」と納得するわかりやすい配置になっていることに気付くはずです。

題名の衝撃

小説の題名は「流浪の月」です。「流浪」の意味を調べてみると「住むところを定めず、さまよい歩くこと。」とありました。

「月」は約30日をかけて満ち欠けしながら地球を回っています。悩み苦しむ更紗は月なのかもしれません。それなら、月=更紗 そして、地球=文という意味が題名込められていると思います。

文と更紗地球と月の関係のように、今ある距離以上に引き付けられず、そして、それ以上離れず適度な距離を保ちながら歩んでいく関係です。このことを示唆しているような題名なのだと捉えました。

しかし、これは私なりの解釈なので、小説を読んで自分なりの答えを見つけてください。

インターネット時代の衝撃

SNSが中心人物の2人にとって脅威となります。SNSに放たれた過去の忌まわしい情報がいつまでもとどまり、さらにアップデートされて2人をとこまでも追い詰めていきます。

それは、結局、犯罪の加害者も被害者も追い詰めて行きくことになります。

小説の中だけではなく、リアルな社会でも同じなのではないでしょうか。小説を読みながら、「少年A」や「酒鬼薔聖斗」とその家族のこと、そして、その事件の被害者とその家族のことが頭に浮かびました。

また、最近ネット上をにぎわした「神戸市東須磨小学校事件」で被害に遭われた先生のことも気になりました。

SNS全盛の今の時代、犯罪の被害者には絶対になりたくないものです。

作品のテーマの多さの衝撃

不自由な世界を自由に生きることこそが生きること

・善意は、ときに人を傷つけることがある

・必要なパートナーは、男女の性差や年齢差とは関係ない

・人は自分にないものに惹かれていく

・人の幸せとは何か

などのテーマがあると思いました。

人はそれぞれ多様な生き方があります。登場人物の多くが、「自分を理解してくれる人」を手に入れることで幸せになろうとしていました。それはリアルな社会でも同じなのではないでしょうか。

「ロリコンは悪いことなのか?」と考えさせられた衝撃

小説の中の社会では「佐伯 文」は、ロリコンというレッテルを貼られて苦しみます。彼が、いわゆるロリコンなのは、彼が、『不幸な十字架を背負って生まれてきた』からです。元々ロリコンの資質があったわけではなく、病気のためにそのように振舞うしかなかったのです。

しかし、小説の中では、ロリコンと決めつけられ、世間の人から毛嫌いされます。また、「汚らわしい。」「性的異常者」等の扱いで、差別されます。

そこで、私の中に、「ロリコンは本当に悪いことなのか?」という疑問が生まれました。LGBTが認知されてきた現代においてロリコンは社会的な地位を得ているのでしょうか。それともロリコンそのものが犯罪なのでしょうか?

ロリコンは、他の障害と同じように生まれつきのそような脳の仕組みをしているのです。自閉症や情緒障と同じ脳の気質です。

確かに、「佐伯 文」は法律に触れるような行為をしてしまいますが、少女「更紗」に対しては物理的にも、精神的にも苦痛を与えてはいません。それどころか、彼女の気持ちを満たすことができた唯一の人物なのです。

ですから、ロリコン指向の人自体には罪はないと思います。ロリコンの性癖があるがゆえに犯罪を犯してしまう人のみが悪いのです。

読み終わった後の衝撃

私は読み終わった後、しばらくソファーから立ち上がれませんでした。この感覚は、感動する映画を観たときとよく似たものでした。

更紗と文がわかり合えたことの安堵感と、そして、これから始まる流浪の旅の不安感がまざりあった複雑な感情が残ったからです。

しかし、この感情は決して、不快なものではなく、どちらかというと心地よいものでした。そして、この本を読むことができてよかったと思いました。

この記事を読まれた方は、小説「流浪の月」をご一読され、私と同じように多くの衝撃と心地よさを感じていただきたいと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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